この記事は、雨庭 有沙さん主催アドベントカレンダー「聴いてくれこの10曲! Advent Calendar 2025」の10日目の投稿記事です。
アドベントカレンダー…12月25日のクリスマスへのカウントダウンをする風習に基づいて、いろんな記事や創作物を1日ずつひとりでorみんなでアップしてみようという企画。テック界隈が発祥。
わたしは「歌詞を基本的に聞いてないイチ音楽」なのですが、その理由については長くなったので記事を分けました。
さて、タイトルテーマにあった10曲を選出するにあたり、以下の4つを制約として課しています。
・いちアーティストにつき1曲
・長さが4小節以上あること
・カンペせず書き出して9割あっていること
・抜き出しても散文として文意が取れること
で、プレイリストも作りました。ちゃんと曲調の繋ぎを考えて並べてあります。
目次はこちら
- plenty「後悔」(2009年)
- サカナクション「スローモーション」(2011年)
- girl in red「Serotonin」(2021年)
- Porter Robinson「Look at the sky」(2021年)
- 100 gecs「gec to Ü」(2019年)
- SEBASTIAN X「GO BACK TO MONSTER」(2012年)
- 日食なつこ「致死量の自由」(2019年)
- People In The Box「ユリイカ」(2012年)
- cinema staff「海について」(2011年)
- 赤い公園「黄色い花」(2016年)
そんじゃ、いきますか。
1. plenty「後悔」(2009年)
そこまでされて何も言わなくてもいいの?
君ならそう言うと思ってた
ここまできていい人ぶってんの?
誰に言う言葉だろう夢をみた。君の夢。後ろ向きでただ泣いてた。
上をみた。黒い雲。涙が重たく頬をつたった。悪くないな… 悪くないな…君が思うほど悪くないな。
悪くないな… 悪くないな… ってそう思ってるだけ。
「歌詞を基本的に聞いてないと標榜してる割に、出だしから長いな」と思ったそこのあなた。
plentyはギターヴォーカル、ベース、ドラムスのスリーピースバンドで、この曲は4分16秒あるのだがなんと、
- 四つのコードによるイントロ
- 上記の歌詞を2回ループ
- 間奏
- サビ(悪くないな…~の部分)繰り返し
いうドがつくほどのシンプルな構成をしている。こんなん絶対令和じゃ許されない。
鬱々とした歌詞にふさわしい淡々とした一巡めの後、続く二巡目でごくわずかな変化を施すことで、思考の袋小路感が際立つ。plentyの歌詞はこの曲のように、詩として通用するレベルの展開(※個人の意見)をするので、わたしでも長尺で歌詞を覚えていられる。他にも好きな曲はたくさんあるけれど、この曲の歌詞を見た時の衝撃を味わってほしいのでチョイス。
2. サカナクション「スローモーション」(2011年)
だんだん減る
だんだん減る
だんだん減る未来 未来だんだん知る
だんだん知る
だんだん知る未来
ソングライティングが素晴らしいと思うミュージシャンはたくさんいる。作詞が素晴らしいと思うミュージシャンもたくさんいる。
その両方を兼ね備えた上で、他者との共同作業を通じてしかできないバンド音楽をやり続けている人間として、わたしが敬愛してやまない人物その1はサカナクションの山口一郎である。
この曲はシングルのカップリング曲である。ややサイケデリックなキーボードとミニマルなドラムを中心に冷涼な雰囲気ではじまり、サビでは「スローモーション」という言葉と相反するように激情的な歌メロ、感想で歪んだギターが轟き、同じ歌詞なのに覚悟を感じさせるサビの後、コーラスによって歌われるのがこの歌詞。
「だんだん知る未来」を希望と取るか、絶望と取るかはきっと聞く人次第。このレベルで曖昧さを保てるのが本当にすごい。
3. girl in red「Serotonin」(2021年)
My inner voices saying, “tough”
So I try to brush it off
Yeah,try to brush it offわたしの裡で声がする「強くあれ」って
それをこすり落とそうと、
こすり落とそうとしてるの
ここからは洋楽三連発。
1999年・ノルウェー出身のMarie Ulven (マリー・ウルヴェン)のソロプロジェクト、girl in red。メンタルヘルスやジェンダーなどをテーマにしたドリーミーかつポップなサウンドの楽曲で、同世代を中心に熱烈な支持を得ている。
ビリー・アイリッシュの兄・フィニアスを共同プロデューサーに迎えた、デビューアルバム『if i could make it go quiet』からの一曲。
歌詞を聞いていない勢の共通項か不明だが、わたしは簡単な英語であれば歌詞が聞けるようだ。
タイトルのSerotonin=セロトニンは人間が幸福感を感じるときに授受される脳内ホルモン。たゆたいつつも冷静なコーラス(≒サビ)と攻撃的な低音にラップ調のヴァース(≒サビ以外の部分のこと)をのせたこの曲を聴くと、メンタルヘルスに問題を抱えているわたしとしては、自分の感覚を写し取られたような感覚を覚える。
中でも上記の部分は一番こみ上げるものがある。「I try to brush it off Yeah,try to brush it off」と二回繰り返されるところが真に迫っている。
最後のポエトリーリーディングは彼女の母国語で、非常にディープな心身の苦痛が語られる。自己の苦しみとそれを創作物にすることのギリギリの綱渡りが感じられる曲。
4. Porter Robinson「Look at the sky」(2021年)
Look at the sky, I’m still here
I’ll be alive next year
I can make something good, oh
Something good
空を見上げてみなよ、ぼくはここにいる
きっと来年も生きている
なにかいいものが作れるはずなんだ
なにかいいものが
1992年生まれのアメリカ人ミュージシャン/DJ/音楽プロデューサーPorter Robinsonが2021年4月に発売したアルバム「Nurture」から。
Porterは激しいジャバニーズ・ヲタク・カルチャー好きとして知られている。
詳しい経歴などはこちらを見るとよい。(ポーター・ロビンソンをこれから聴くあなたに知ってほしい、日本愛に溢れた5つの歩み)
本曲は2020年にコロナウィルス救済支援を行うためにPorterが主催したオンライン・フェス『Secret Sky Festival』で演奏された曲。
このオンラインフェスにわたしも日本からアクセスして、長谷川白紙呼ぶなんてやっぱPorterはワカッテル~とか言いながら楽しんでいた。
もともとわたしは引きこもり気質で、世界的な情勢を案じてはいたけれど、就職先が完全リモートになってラッキーと思っていたくらいだったので、ラスト、Porterが去ったDJブースで歌詞字幕付きのこの曲がかかった時、自分が号泣したことにひどく驚いた。窓越しにしか空を見渡せない時流における「I’ll be alive next year」は彼の本気の祈りだと分かったから。その後に続く言葉は、パンデミック下においてミュージシャンである自分ができることをやる、という意思が感じられる。
5. 100 gecs「gec to Ü」(2019年)
Dishes are piling up
But that’s cool
‘Cause at least we got food
Yeah, everything is pilin’ up
But that’s cool, that’s cool
‘Cause at least I got you, I got you, I got you
皿が山積み
ううん、いーじゃん
とりまメシ食べたってことじゃん
物事が山積み
ううん、いーんだよそれで
だってサイアクでも君がいる
Dylan BradyとLaura Lesによるデュオ。この曲が収録されたデビュー・アルバム『1000 gecs』はニューヨークタイムズをはじめ、各USメディアからは「ルール無用の印象的で精密な最大主義運動」「今、最も賢明なポップミュージック」と称賛された。このブログ(馬鹿な馬を乗りこなす–––100 gecs『1000 gecs』)
この歌詞を聞き取れたとき、目を開かれるような思いをしたのを鮮明に思い出せる。空虚さを愛で埋めようとする試みが――最後は暴発か崩壊かノイズのようになだれ込んでいく曲全体の中で、この詭弁の美しさったらない。
6. SEBASTIAN X「GO BACK TO MONSTER」(2012年)
誰もが恐れて言わないなら 私がここで言ってやる
人の命に意味などない 守れるものなどどこにもない
正直なところ、この曲を10選に入れるかどうか迷った。この曲が発表された年も、そして2025年の今も世界のどこかで爆撃機が飛んでいるし、人が簡単に死んでいる――殺されている。それでも、いやそれだからこそ、ヴォーカルの永原真夏の書いたこの歌詞には「意味」があるとわたしは思っている。
なだれ込むようなスネアの連打に合わせて「GO BACK TO MONSTER」と伸びやかな声でコールされて曲は始まる。すべてを否定して暴れようとする、思春期の子供たちの周囲で揺らめいている衝動を写し取ったような歌声、それに負けじと繰り広げられる調子っぱずれの電子ピアノ音をはじめとした楽器のパンクスめいた演奏。
その中でひと際異彩を放つのが上記の歌詞だ。これはものを知らないがゆえの無敵さであり、偽らざる本心で、まったく正しくないからこそ真実に近い。だからわたしは「どこにもない!」という叫びに心の中で大声で返す。
「けど!」って。
7. 日食なつこ「致死量の自由」(2019年)
初めての自由に僕ら浮かれていただけなんです
知っていたら望まなかった
本当か? ごめん 全部 嘘 だ
1991年、岩手県花巻市出身のシンガーソングライター・日食なつこの歌は不思議だ。迷いと韜晦と皮肉と後悔。決意と信念と素直さと希望。それらが彼女の歌声と鍵盤の上ではまったく等価に扱われているから。歌詞が感情的な分、歌い方は抑制が利いている。この曲もそう。
自由は猛毒で、致命傷をもたらすものだ。そんなシニカルな歌詞の世界観の集大成として「本当か?」までの部分は、それまでよりほんの少し平坦な声で歌われる。が、それらの一切は「ごめん 全部 嘘 だ」でひっくり返される。ネガティブな感情とポジティブな感情の間で揺れ続けた末、最後に残るのは「自分で決める」ということ。日食なつこからはずっと一貫してその姿勢が見える。初めて曲を聴いた時から、彼女はわたしの憧れのお姉さんのひとりである。
8. People In The Box「ユリイカ」(2012年)
歌を歌おう走る救急車の中
君の持ち時間はあと8小節
2005年結成の3ピース・バンド。08年にベースが交代して以降、同じメンバーでヤバい音楽を作り続けている。あの米津玄師ほか、ミドサー~アラサーあたりのアーティストに信奉者が多数存在している。わたしもそのひとりであり、ギターヴォーカルの波多野裕文は山口一郎と同じ枠その2。
クラシックギターが鳴らしていてもおかしくないアルペジオとともに歌が始まり、楽隊めいたリズムのヴァースと祝祭感のあるコーラスが、6/8拍子を基本に進んでいく。ラストのコーラスで上に転調し、上記の歌詞が歌われた後、「ワン、ツー、スリー」とヴォーカルが叫び、そして「ハーリアッピィザーハースピタール(Hurry up to the hospital)」とコーラスが3回繰り返されて終わる。
きっかり8小節ぶんを費やして。
趣味が悪すぎる。悪すぎるがあまり一周回って異様に美しい。わたしはそう思う。
9. cinema staff「海について」(2011年)
話がしたいな。どこでもいいから。欲を言うなら、海がみえる所で。
2006年結成。「岐阜県から来ました、cinema staffです」が口上の通り、四分の三が岐阜県民から成るcinema staffのセルフタイトルアルバム「cinema staff」の最後を飾る一曲。
ギターのアルペジオと、歌うようなスタッカートのベースフレーズによる軽快なヴァースは旅路を示唆しているよう。旅のクライマックス前、間奏の始まりでブルースハープ(ハーモニカ)が吹き鳴らされた後、アコギが掻き鳴らされ、歪んだギターがこれまでの道のりで向き合い損ねた苦悩を示すように鳴る。そして、その先で歌われるのがこの歌詞。
山に囲まれた、しかし河を下っていけば確実に海があると知っている町で生まれ育った人間にしか書けない、最高の「海について」の歌だと思う。
10. 赤い公園「黄色い花」
もしもあなたが
悲しくて俯いてしまった時には
せめて咲いてるタンポポでありたい
赤い公園のこの曲については、以前エッセイを書いたので割愛。プレイリストのエンドロール曲。
さて、こうして10曲まとめてみると、思春期(2010年代)~コロナ禍(2020年)前後に曲が集中しているのがよく分かる。やってみてよかった。面白かった。雨庭さん、ありがとうございました。

